臨床心理学に基づいた知識、及び技術を用いて、対象となる人の心の問題にアプローチしていく専門家として、「臨床心理士」という民家資格があります。これから資格を取得しようとしている方にとっては、具体的な仕事内容や年収など、気になることは多いですよね。
今回は、臨床心理士の気になる仕事内容や年収、将来性などについて詳しく解説していきます。
臨床心理士は、公益財団法人日本臨床心理士資格認定協会が認定している民間資格で、資格認定がスタートしたのは昭和63(1988)年です。定められた受験資格を満たした上で、年に1回の試験に合格して、初めて得られる「心理専門職の証」となりますので、専門性及び信頼の高いものとされています。なお、臨床心理士には一定の研修を条件に、5年ごとに資格を更新する義務があります。公益財団法人日本臨床心理士資格認定協会の発表によると、2019年4月1日時点で、臨床心理士の有資格者は35,912名となっております。
臨床心理士は、医療分野から教育分野、産業領域など幅広い場所で勤務し、対象となる方一人ひとりの心の問題に取り組む専門職となります。臨床心理士の求められる専門行為・業務内容に関しては、以下をご参照ください。
臨床心理士に求められる専門行為 | |
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① | 種々の心理テスト等を用いての心理査定技法や面接査定に精通していること |
② | 一定の水準で臨床心理学的にかかわる面接援助技法を適用して、その的確な対応・処置能力を持っていること。 |
③ | 地域の心の健康活動にかかわる人的援助システムのコーディネーティングやコンサルテーションにかかわる能力を保持していること。 |
④ | 自らの援助技法や査定技法を含めた多様な心理臨床実践に関する研究・調査とその発表等についての資質の涵養が要請されること |
引用:日本臨床心理士資格認定協会ホームページより
臨床心理士の専門業務 |
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①臨床心理査定 |
「診断」(diagnosis)ではなく「査定」(assessment)と表記しています。「診断」は、診断する人の立場から対象の特徴を評価しますが、「査定」は、その査定(診断)される人の立場から、その人の特徴を評価する専門行為に主眼がおかれています。つまり臨床心理査定とは、種々の心理テストや観察面接を通じて、個々人の独自性、個別性の固有な特徴や問題点の所在を明らかにすることを意味します。また同時に、心の問題で悩む人々をどのような方法で援助するのが望ましいか明らかにしようとします。加えて、他の専門家とも検討を行う専門行為といえます。 |
②臨床心理面接 |
臨床心理面接は、臨床心理士とクライエント(相談依頼者)との人間関係が構築される過程で“共感”“納得”“理解”“再生”といった心情が生まれる貴重な心的空間です。そして来談する人の特徴に応じて、さまざまな臨床心理学的技法(精神分析、夢分析、遊戯療法、クライエント中心療法、集団心理療法、行動療法、箱庭療法、臨床動作法、家族療法、芸術療法、認知療法、ゲシュタルト療法、イメージ療法など)を用いて、クライエントの心の支援に資する臨床心理士のもっとも中心的な専門行為です。 |
③臨床心理的地域援助 |
専門的に特定の個人を対象とするだけでなく、地域住民や学校、職場に所属する人々(コミュニティ)の心の健康や地域住民の被害の支援活動を行うことも臨床心理士の専門性を活かした重要な専門行為です。これらのコンサルテーション活動は、個人のプライバシーを十二分に守りながらも、コミュニティ全体を考慮した心の情報整理や環境調整を行う活動ともいえます。また、一般的な生活環境の健全な発展のために、心理的情報を提供したり提言する活動も“地域援助”の業務に含まれます。 |
④上記①~③に関する調査・研究 |
心の問題への援助を行っていくうえで、技術的な手法や知識を確実なものにするために、基礎となる臨床心理的調査や研究活動を実施します。心理臨床の個別性に由来するさまざまな問題や課題に関する特化した研究技法ともいわれる“事例研究”の体験学習は、臨床心理士に求められる大切な専門業務と直結しています。高度専門職業人として、自らの専門資質の維持・発展に資するきわめて重要な自己研鑽に関する専門業務といえましょう。 |
引用:日本臨床心理士資格認定協会ホームページより
先述しましたように、臨床心理士の活躍の場は多岐に渡ります。日本臨床心理士資格認定協会によれば、「もともと臨床心理士資格は「汎用性」を特徴としており、結果的に活動領域が広汎になるのは当然のことなのです」とあります。人との関わりがある、あらゆる場所で活躍できる可能性を秘めていると言えましょう。具体的な活躍の場としては、以下のようなものがあります。ご参照ください。
教育分野 |
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学校内の相談室や教育センター、各種教育相談機関などに勤務し、生徒に対して心理的な援助を行います。場合によっては、生徒のご家族や教師との面談を実施し、問題解決の為のサポートを担当します。 |
医療・保険分野 |
病院や診療所、保健所・リハビリテーションセンターなどで、患者さんの心の問題の解決や心理的援助を行います。また、市町村の保健センターなどの公的な施設に勤務し、乳幼児の発達相談や住民のカウンセリングなども担います。 |
福祉分野 |
児童相談所や療育施設、心身障害者福祉センターに老人福祉施設などで、子どもの心身の発達や非行、障がい児や高齢者の問題など、福祉に関連する幅広い領域を、心理的側面から援助していきます。 |
司法・矯正分野 |
家庭裁判所や少年鑑別所、刑務所・拘置所に少年院などで、社会的処遇を決定する際の心理的側面に関するテストや調査、矯正に向けての心理面接などを行います。 |
労働・産業分野 |
企業内相談室や安全保険センター、公立職業安定所(ハローワーク)・障害者職業センターなどで、職業生活の遂行のために、面接や職場内へのコンサルテーションなど、就業の相談では、職業への適性をめぐる問題等の心理的援助を行います。 |
参考:日本臨床心理士資格認定協会ホームページより
臨床心理士の収入は、働いている場所や勤務形態でかなり差異が生じます。常勤の臨床心理士の一般的な年収は300~500万円とされていますが、公共施設などで公務員として働く場合は、法律で定められた「俸給表」に沿って給与が支払われます。
アルバイトなどの非常勤で勤めている場合は、時給換算で給与は支払われます。経験・実績でキャリアアップは可能ですが、裏を返せば現場経験の少ない新人の場合は、常勤で働くことが難しく、非常勤での勤務スタートになることが多いようです。残念ながら、多くの非常勤の臨床心理士が複数の職場を掛け持ちして、常勤へのステップアップの為に経験を積んでいる、というのが現状だと言えます。
臨床心理士の資格を取得するためには、基本的には大学卒業後に「指定大学院」や「専門職大学院」などで、臨床心理学について学び、修了することが必要となります。大学の学費に大学院でかかる費用をプラスすると、場合によっては1,000万ほど費用がかかる計算になります。対象となる指定大学院・専門職大学院に関しては、下記のURLをご参照ください。
臨床心理士受験資格に関する指定大学院・専門職大学院一覧 http://fjcbcp.or.jp/wp/wp-content/uploads/2014/03/daigakuin_ichiran_2019_0808.pdf
臨床心理士は、正解のない人の心の問題について深く掘り下げていることが仕事になります。決して良い面だけでなく、人の心の暗部にも向き合わなくてはなりません。対象となる方に対して真摯に向き合える誠実さと、感情に流されない冷静な判断力が求められます。聞き上手でありつつ、気持ちの切り替えが瞬時にできるようなタフな精神を持った方が、優秀な臨床心理士として活躍できるでしょう。
2015年9月9日に公認心理師法が成立し、2017年9月15日に同法が施行され、国内初の心理職の国家資格として「公認心理師」制度が推進されることになりました。「臨床心理士」と「公認心理師」の一番の違いは、前者は民間資格であり、後者は国家資格である、といったことになります。また、担う業務に若干の違いが見られます。臨床心理士の業務にある「心理臨床実践に関する研究・調査」と比べて、公認心理師の業務には「心の健康に関する知識の普及を図るための教育及び情報の提供を行う」とあります。これらの違いによる具体的な業務内容の違いは、公認心理師が非常に新しい資格制度であるため、現時点では未知数となっています。
ここ日本でも、心理カウンセリングやメンタルケア関連の民間資格は多くありますが、臨床心理士は定められた受験資格を満たした上で、年に1回の試験に合格して、初めて得られる「心理専門職の証」となりますので、専門性及び信頼の高いものとされています。「心理カウンセラー」などの職種に就きたいという方は、臨床心理士は取得しておくべき資格だと言えるでしょう。
但し、一般社団法人日本臨床心理士会「臨床心理士の動向調査」によると、臨床心理士の男女比は女性が7割以上となっており、これはパートなどの非常勤での契約が多いからとされています。安定した就職を実現するのは若干難しいかもしれませんが、心の病への理解が進んでいる現代社会において、心の問題の専門職である臨床心理士の活躍する職場は、今後は増えてくるのではないでしょうか。