理学・作業療法士(PT・OT)の主な勤務先は医療施設になりますが、近年は介護・福祉施設で活躍するPT・OTも増えています。それでは、同じリハビリテーションでも、勤務先によって目的や得ることの出来る経験が違ってくることはご存知でしょうか。病院などの医療施設や、介護老人保健施設や訪問介護ステーションといったような介護施設、それぞれの理学・作業療法士の仕事内容や給料事情について、詳しく解説していきます。
冒頭でも述べましたが、理学・作業療法士の主な就業先は医療分野となっております。平成28年に開催された、「第1回 理学療法士・作業療法士需給分科会」で用いられた、「理学療法士を取り巻く状況について」によると、理学療法士会会員の約80%が医療分野へ就業しており、介護の現場で働く理学療法士は、僅か10%となっております。残りの10%は、教育現場や行政、その他の分野で活躍しています。それでは、それぞれの分野で仕事内容がどのように違うのかを見ていきましょう。
病院などの医療施設におけるリハビリ職の基本的な役目は、身体機能の改善・回復といったことが中心となります。急性期・回復期などで多少の違いはあれど、怪我や病気などで何らかの障害を負った患者さんの機能改善に務めながら、退院して職場復帰などを目指します。精神領域も担う作業療法士であれば、精神科病院なども勤務先の一つとなりますが、身体的な障がいと同じく、精神疾患のある患者さんに対し、作業療法を用いて心のケアを実施して、社会生活への復帰を促します。また、病院でのリハビリテーションは、医師の指導のもとで、看護師や他の医療職と連携を取って医療チームとして業務を行う形が基本となります。
病院と違い、介護老人保健施設や特別養護老人ホーム、訪問介護ステーションといった施設で働く理学・作業療法士の役割として、劇的な改善が望めない高齢者の方々の身体機能の維持、将来に向けた予防的なアプローチを実施するといったことがあります。
訪問リハビリなどにおいては、義肢装具や福祉用具といった適応技術提供であったり、介助者への指導、自宅を確認して手すりの位置などをチェック・改善の提案するなどといったような、より生活に密着した仕事も行います。
仕事内容やリハビリの目的の違いだけでなく、得られるスキルや経験なども、医療施設で働くか介護施設で働くかで、それぞれに違いがあります。
リハビリテーション科や整形外科のみならず、神経内科や脳神経外科といったように、理学・作業療法士が関わる多くの診療科や部署がある病院では、対象となる疾患も多岐に渡ります。様々な技術を学ぶ機会も多く、リハビリ職としての成長に繋がるでしょう。また、他職種との連携が基本となりますから、それぞれの立場や考え方を知ることで、多面的な思考を養うことも期待できます。大きな病院であれば、同じリハビリ職の同僚が複数勤務していますので、とくに経験の浅い理学・作業療法士にとっては心強い面もあるでしょう。
介護施設では、利用者の日常生活に密着した、長期的な関係性を築いてくようなリハビリテーションが可能となります。目まぐるしく患者さんが入れ替わる病院と比べて、より一人ひとりにじっくりと向き合ったリハビリを行うことができるのです。また、通常の機能訓練のみならず、身体機能を維持するための環境作りとして、地域社会への参加を促すために、自治体や企業と共に関わっていくといった、リハビリ職としての新たな働き方も、現在注目されています。医療施設と同じように、協力医や介護職員、看護師といった他職種との連携は不可欠となりますが、リハビリ職は1名体制で業務を行うことが多く、利用者も非典型的な症例を持った高齢者の方々が中心となります。そのため、ある程度のキャリアを持った理学・作業療法士でないと、対応に苦慮することもあるでしょう。
基本的にリハビリ職の給料に関しては、規模の大きい病院の方が安定していると言われています。とはいえ、厚生労働省「平成30年賃金構造基本統計調査」によれば、規模の小さい事業所の給与が若干高いという結果になっているのですが、小規模な施設の方が勤務時間が14時間程多くなっていることも、念頭に入れておいた方がよいでしょう。訪問介護ステーションなどでは、病院などにはない「インセンティブ」という制度があり、より高い年収が実現可能となる場合もあります。どちらにしても、勤務先を決める際には、綿密な事前調査は必ず行うようにしましょう。
これまで解説してきましたように、それぞれの特色や違いを理解した上で、勤務先の判断はした方がよいでしょう。基本的には、新卒や経験の浅い理学・作業療法士は病院で働くことをおススメします。リハビリ職としての第一歩を踏み出す上で、新人にとっては成長に繋がる経験を多く積むことができます。
一人ひとりの利用者の日常生活までしっかりとサポートしたい、というPT・OTさんは、介護・福祉施設で働くことで、そのようなリハビリテーションが可能となります。但し、繰り返しになりますが、ある程度のキャリアを積んだ理学・作業療法士でないと難しい対応に迫られる場合も多いので、自身の能力や適性を客観的に判断した上で勤務先を選ぶことを心掛けましょう。
医療・介護施設のみならず、理学・作業療法士の就業先は近年広がりを見せています。就労支援事業施設であったり、地域の保健センターに勤務して、健康関連のセミナーの講師を担当したり、医療機器メーカーで福祉関連の機器の販売や製造業務を行う、など様々です。大切なのは、自分がどのような理学・作業療法士を目指しているのか、といったような明確な目標やイメージを持つことです。そうすれば、自ずと進むべき道も開けてくるはずです。