リハビリテーションの現場で、日々活躍している作業療法士(OT)。身体機能のリハビリのみならず、心のケアも担当することから、精神科の病院や認知症専門の施設で働くこともあります。今回は、そんな作業療法士の気になる年収・給料事情に迫ります。合わせて、今後の傾向や将来の展望なども解説していきますので、ぜひご覧ください!
作業療法士の給与に関しては、同じくリハビリ職の専門家である理学療法士と、基本的にはほぼ同程度の水準となっています。厚生労働省が公表している資料を参考にして、作業療法士の給与事情を確認していきましょう。
厚生労働省「平成30年賃金構造基本統計調査」によると、作業療法士の平均給与、年収などは以下のようになっております。
平均年齢 | 32.9歳 |
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勤続年数 | 6.1年 |
月額給与 | 285,200円 |
年間賞与 | 662,200円 |
平均年収 | 4,084,600円 |
※年収の計算は、「きまって支給する現金給与額×12ヶ月+年間賞与その他特別給与額」となります。
国税庁「平成29年分民間給与実態統計調査結果」によると、1年を通じて勤務した給与所得者の年間の平均給与は、432万円となっておりますので、作業療法士の平均年収は、残念ながらやや下回る結果となりました。作業療法士として働くメインの年齢層はキャリアの浅い20代で、かつ作業療法士の7割近くを占めるのが女性という点が、一つの要因となっているようです。
性別 | 年齢 | 支給額 | 年間賞与その他特別給与額 | 年収 |
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男 | 32.8歳 | 292,300円 | 662,700円 | 4,170,300円 |
女 | 33.0歳 | 277,300円 | 661,600円 | 3,992,800円 |
※参照:厚生労働省「平成30年賃金構造基本統計調査」より
男女間で、約20万ほどの差が出ているという結果となっております。但し、先述した日本全体の平均給与額を男女別にみると、男性532万円、女性287万円となっており、作業療法士の男女別の給与格差は、比較的小さいと言えるでしょう。
企業規模計 | 年齢 | 勤続年数 | 所定内実労働時間数 | 超過実労働時間数 | 支給額 | 年間賞与その他特別給与額 | 年収 |
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10~99人 | 36.5歳 | 7年 | 172時間 | 5時間 | 307,600円 | 572,600円 | 4,263,800円 |
100~999人 | 32.6歳 | 5.8年 | 163時間 | 5時間 | 279,400円 | 653,400円 | 4,006,200円 |
1000人以上 | 31.1歳 | 6.1年 | 158時間 | 8時間 | 286,900円 | 757,500円 | 4,200,300円 |
※参照:厚生労働省「平成30年賃金構造基本統計調査」より
上表にあるように、勤務先によって若干の収入格差があることが分かります。具体的には、規模の小さい事業所の給与が、やや高いという結果になっています。
但し、規模の大きい病院などと比べて、小規模な施設の方が勤務時間が14時間程多くなっておりますので、一概にどの施設の待遇が一番良いとは言えない、といったところが現状となります。
新卒採用で就職した場合、作業療法士の初任給は、平均して23.5万円程度となっていますので、年収にして、約280~300万程度となります。産労総合研究所「2018年度 決定初任給調査」によると、大卒の初任給の相場は20.6万となっているので、作業療法士の初任給は、平均よりやや高めと言えるでしょう。転職後の初任給に関しては、多くの施設が過去の経歴や業務経験などを考慮した上で設定しているようです。
作業療法士は医療職ということもあり、初任給に関しては比較的高めに設定されていることは既に述べました。但し、その後大幅な年収増には繋がりにくい、といったところが現状のようです。勿論、上り幅は少なくとも、キャリアに応じてある程度の年収・ボーナス増は見込めるでしょう。また、キャリアアップという観点から、早いうちから管理職を目指す、認定・専門作業療法士を取得することで自身の価値を高める、といった手段もありますので、個人個人のキャリアに沿った道を見極めることも大切です。
平成31年に行われた「第3回 理学療法士・作業療法士需給分科会」の報告では、理学療法士(PT)と作業療法士(OT)の供給数が、2040年頃には需要数の約1.5倍になるといった需給推計結果が示されています。作業療法士の雇用自体はある程度安定しているにせよ、供給過多になる可能性もあるということでしょう。しかしながら、作業療法士ならではの働き方や、活躍できる場所の幅広さというものがあります。いくつかの例を挙げますので、ご参照ください。
以前までの作業療法士の主な就職先は、病院のリハビリテーション科などの医療機関が中心でしたが、現在は福祉・介護・保険・教育分野にまで、活躍できる場所は広がっています。また、リハビリ職の中でも、作業療法士は唯一精神的な障がいのある方への専門的なアプローチが可能な立場です。そのため、精神科はもちろん、認知症関連の施設や発達障害児の支援などでも活躍が期待されます。
とくに作業療法士は女性が多く働く職場のため、子育てや家庭との両立に理解があるとされております。結婚や出産などで退職し、ブランク明けでパートや非常勤職員として復職されている方もいます。個人個人の事情に見合った就労環境を、ある程度選択しやすい職業と言えるのではないでしょうか。
作業療法士は国家資格ですから、一度取得すれば更新の必要はありません。社会的な信頼度も高く、専門職であるからこそ、失職したり再就職先に困るといったことはあまりないでしょう。
日本作業療法士協会が発表した「2017年度 日本作業療法士協会会員統計資料」によると、会員に所属している作業療法士の87.8%が、OTとして就業しているようです。多くの作業療法士が、様々な形で作業療法関連の仕事に携わっていられることの証左と言えます。
超高齢化社会を迎える今、リハビリ職の専門家である作業療法士の需要は、今まで以上に高まることは間違いありません。さらに、ひと昔前と比べて、精神疾患や発達障がいといった病気や障がいが、世間的にも知られ始めている現代社会において、心のケアも担うOTとしての役割は、より一層重要なものとなるでしょう。但し、先述しましたように、作業療法士の増加に伴い、供給過多に陥る可能性もあります。だからこそ、自身の作業療法士としての目標を明確にし、日々勉強を怠ることなく、リハビリ職のプロとしての価値を高めていく必要があるのです。