理学療法士・作業療法士・言語聴覚士の求人のTOPコラム 認知症ケア専門士 > 認知症とどう向き合う?作業・理学療法士との関わりについて

認知症とどう向き合う?作業・理学療法士との関わりについて

超高齢化社会を迎える現在、「認知症」の問題は切実なものとなっています。認知症に対する施策は、国を挙げて様々な取り組みがなされていますが、今回は、作業療法士・理学療法士などリハビリ職の観点から行う、認知症ケアについて詳細に解説していきます。

「認知症」とは?

「認知症」は老化によるもの忘れとは違い、何らかの病気によって脳の神経細胞の変性・脱落などから生じる状態、症状のことを言います。身近に認知症を患った方がいない人でも、大体の症状などはご存知かと思います。とはいえ、一口に認知症といっても、原因や症状などに多くの種類が存在します。まずは、認知症の定義について再確認しておきましょう。

認知症の定義について

認知症とは「生後いったん正常に発達した種々の精神機能が慢性的に減退・消失することで、日常生活・社会生活を営めない状態」をいいます。
つまり、後天的原因により生じる知能の障害である点で、知的障害(精神遅滞)とは異なるのです。 今日、認知症の診断に最も用いられる診断基準のひとつが、アメリカ精神医学会によるDSM-IVです。各種の認知症性疾患ごとにその定義は異なりますが、共通する診断基準には以下の4項目があります。

DSM-Ⅳによる認知症の診断基準
・多彩な認知欠損。記憶障害以外に、失語、失行、失認、遂行機能障害のうちのひとつ以上。
・認知欠損は、その各々が社会的または職業的機能の著しい障害を引き起こし、病前の機能水準から著しく低下している。
・認知欠損はせん妄の経過中にのみ現れるものではない。
・痴呆症状が、原因である一般身体疾患の直接的な結果であるという証拠が必要。

※引用:厚生労働省「みんなのメンタルヘルス総合サイト」より

近年では、より早期診断を可能にする新たな診断基準なども作成されております。治療法開発が進み、認知症の早期診断が重要になったことを踏まえて、従来のような診断基準を満たした段階は、もはや早期とは言えなくなってきた、ということが背景にあります。

三大認知症って?

認知症の約85%を占める、「三大認知症」というものをご存知でしょうか。具体的な名称としては、「アルツハイマー型認知症」「レビー小体型認知症」「血管性認知症」の3つがあります。以下に主な特徴などをまとめてみましたので、ご参照ください。

アルツハイマー型認知症
脳細胞の委縮に伴い、発症する認知症です。主に、記憶障害や見当識障害などからなる「中核症状」、妄想や徘徊、うつ状態などからなる「行動・心理症状(BPSD)」といった症状が表れます。認知症の中でも最も多く、全体の約5割を占めるのが、アルツハイマー型認知症です。現在、根本的な治療法はありません。
レビー小体型認知症
アルツハイマー病と、パーキンソン病の特徴を併せもつ疾患です。大脳の皮質の神経細胞内に「レビー小体」と呼ばれるタンパク質が溜まることによって発症します。幻覚(幻視)がはっきりと現れ、手足が震える、小刻みに歩くなどといったパーキンソン症状に近似した症状が見られることも特徴です。
脳血管性認知症
様々なタイプがありますが、主に脳梗塞や脳出血などによって発症する認知症です。失われる機能には個人差があり、その日の血流の具合によって、障害される能力と残っている能力がある「まだら認知症」の状態が多く見られます。

この他にも、「正常圧水頭症」や「慢性硬膜下血腫」など、治る可能性のある認知症などがあります。

認知症の患者数について

厚生労働省「認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)」によると、2012年(平成24年)の時点で、日本の認知症の人の数は約462万人、65歳以上の高齢者の約7人に1人と推計されています。正常と認知症との中間の状態の軽度認知障害(MCI: Mild Cognitive Impairment)と推計される約400万人と合わせると、65歳以上高齢者の約4人に1人が認知症の人又は予備群とも言われています。さらに、今後の高齢者人口の増加に伴い、2025年の認知症患者数は700万人を超え、65歳以上の5人に1人が認知症患者という推計値が発表されています。

認知症のリハビリって?

認知症には根本的な治療法はありませんが、症状の進行を遅らせる薬や不安や妄想・不眠などの症状を抑える薬による「薬物治療」と、リハビリテーションや心理療法を用いて、認知症を患った方やそのご家族のサポート、及び環境を整えることなどを行う「非薬物療法」があります。認知症のリハビリテーションは、以前までは介護保険で行われてきましたが、その効果の高さが認められ、2014年からは医療保険が適用されるようになりました(対象となる患者さんは限られます)。認知症のリハビリとして、作業療法士や理学療法士がどのように関わっていくのか、以下で詳しく解説していきます。

認知症と作業療法について

「作業療法」は、家事や買い物、手芸・園芸など日常的な様々な動作を含んだ「作業」を通して、心と体のリハビリテーションを実施します。通常の機能回復を目指すリハビリとは違い、認知症における「作業療法」を用いたリハビリは、認知症の進行を遅らせるための予防的処置を主な目的としています。
「認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)」では、「認知症の人に対するリハビリテーションについては、実際に生活する場面を念頭に置きつつ、有する認知機能等の能力をしっかりと見極め、これを最大限に活かしながら、ADL(食事、排泄等)や IADL(掃除、趣味活動、社会参加等)の日常の生活を自立し継続できるよう推進する」と明記されていますので、作業療法の観点からの認知症リハビリの取り組みは、非常に注目されていると言えましょう。

作業療法を使った認知症のリハビリとは

認知症を患った方は、今まで自分が「できていたこと」ができなくなってしまったことに、不安と悲しみを抱いています。リハビリテーションといった形で、指示を受けて「訓練」するにしても、手順が覚えられずに混乱してしまったり、「指示されている」ことに拒否感や怒りが生まれてしまっては、意味がありません。「作業療法」は、日常生活の中で自立して行えることや、今まで得意だったことや好きでやっていたことなどを、対象となる方の性格や、今までの人生の背景を理解した上で取り入れていきます。

具体的に作業療法で行うこと

上述したように、作業療法士は対象となる方の生活史を重視します。その人の得意としている作業や興味を持っていることを引き出すだけでなく、昔を思い出すことで自分に自信を取り戻すことや、心が安定して信頼関係を生むことにも一役買っています。
たとえば毎日地道に家事に従事されていた方には、洗濯物を畳んだり掃除をする、などといったことも、認知症のリハビリテーションです。社交的な方であれば、歌やおしゃべり会などの催しの開催、黙々と作業をする方であれば、折り紙や塗り絵といったことを行います。認知症を患った方に多くの成功体験を得てもらい、喜びや達成感を味わってもらうことで、症状が改善した例も多くあるそうです。
この際、決して無理をさせてはいけません。指示をする場合も、目的や方法も含めて極力シンプルかつ明確にすることが大切です。

認知症と理学療法について

身体機能改善のプロである理学療法士も、運動療法やADL訓練などを用いて、認知症リハビリに関わっていきます。適度な運動に取り組むことで、身体機能の維持・改善のみならず、認知症の予防や改善に繋がると言われています。理学療法士の観点から、適切な運動プログラムを処方し、作業療法士とも連携をとって、認知症患者さんに対して有効なリハビリプログラムを考察し、組み立てていきます。

認知症に対する運動療法の効果とは

適切な運動療法がもたらす身体機能の維持は、転倒などの二次的なリスクの防止にも繋がりますし、介助者の助けにもなります。また、脳の活性化を促し、認知機能の改善などの効果が期待できます。運動1回につき45~60分で週3回以上、といったように、日々の生活の中に、決められた頻度で運動療法を習慣づけることにより、生活のリズムを整え、症状を安定させることに繋がります。

具体的に運動療法で行うこと

運動療法の内容は、散歩やボールを使ったゲーム、ウォーキングなどの有酸素運動、関節可動域の改善のためのストレッチなど、様々です。また、認知症の予防・進行抑制などを目的とした「コグニサイズ」(国立長寿医療研究センターが開発)という、運動と認知課題を組み合わせた運動療法が注目されています。作業療法と同じく、患者さんの自尊心や個性などを尊重し、生活史を理解した上で、残存機能を引き出すようなアプローチを基本としたプログラムを組んでいくことが重要です。過度な運動や無理強いすることは逆効果になってしまいますので、対象となる方の状況をしっかりと把握し、コミュニケーションを取りながら患者さんの意欲を高め、積極的にリハビリを楽しんでもらえるように促します。

まとめ
近年は、健康な方を対象とした認知症予防活動の一環として、理学療法士や作業療法士によるセミナーなども開催されています。地域の介護予防総合事業も、今後は更に活性化していくでしょう。認知症は、誰にでも起こり得る身近な問題です。リハビリ職のプロとして、認知症リハビリにおける作業・理学療法士の需要も、ますます高まっていくことは間違いありません。