リハビリテーションのスペシャリストとして、医療・介護、スポーツなど様々な分野で活躍している理学療法士(PT)。特に近年は、身体機能の回復のみならず、介護予防を目的としたリハビリなども注目され始めています。今回は、そんな理学療法士を目指している方や、現役で働いている方々にとっても気になる理学療法士の将来性について、様々な角度から解説していきます。
現代の日本において、高齢化社会は深刻な問題となっています。それに伴い、将来的な機能低下が予想される高齢者の方々への予防や生活習慣病の対策、認知症患者との関わりなど、理学療法士の役割は広がっており、需要も高まってきているとされています。また、介護業界は慢性的な人手不足に悩まされていることもあって、転職の際に困るようなことも、現状はないと思われます。同時に、理学療法士の有資格者の数が増えて、供給過多・質の低下などが懸念されています。実体としては、どのようなものになっているのでしょうか。
平成28年に開催された、「第1回 理学療法士・作業療法士需給分科会」で用いられた、「理学療法士を取り巻く状況について」によると、理学療法士会会員の約80%が医療分野へ就業しています。
ですが、超高齢化社会を迎える現在、地域密着型の訪問リハビリテーションや緩和ケア領域における理学療法士の存在感が高まりつつあります。介護予防事業と連動した地域ケア会議などの開催、介護・福祉施設において利用者のリハビリを実施する等々、以前までとはまた違った社会的ニーズがあることは間違いないでしょう。
上述した「理学療法士を取り巻く状況について」によれば、20代で就業した理学療法士の就業率は、性差関係なく約90%以上となっています。理学療法士は国家資格という信頼もあり、雇用状況としては、現状は比較的安定していると言えるのではないでしょうか。
女性では31歳以上から就業率が約80%となりますが、これは結婚や出産などがきっかけで退職、といったことが理由として考えられます。
平均年齢 | 勤続年数 | 月額給与 | 年間賞与 | 平均年収 |
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32.9歳 | 6.1年 | 285,200円 | 662,200円 | 4,084,600円 |
※年収の計算は、「きまって支給する現金給与額×12ヶ月+年間賞与その他特別給与額」となります。
国税庁「平成29年分民間給与実態統計調査結果」によると、1年を通じて勤務した給与所得者の年間の平均給与は、432万円となっているので、理学療法士の平均年収は若干下回っている結果となりました。理由としては、理学療法士は若年層(20代~30代)を中心とした職業であり、管理職などのキャリアアップが見込める40代以上の割合が少ない、といったことが挙げられます。下記の表を参照頂ければ分かるように、男女間での年収は約20万ほどの差が出ているという結果となっております。但し、上述した日本全体の平均給与額を男女別にみると、男性532万円、女性287万円となっており、理学療法士の男女別の給与格差は、比較的小さいと言えます。
性別 | 年齢 | 支給額 | 年間賞与その他特別給与額 | 年収 |
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男 | 32.8歳 | 292,300円 | 662,700円 | 4,170,300円 |
女 | 33.0歳 | 277,300円 | 661,600円 | 3,992,800円 |
※参照:厚生労働省「平成30年賃金構造基本統計調査」より
日本理学療法士協会の発表によると、2019年3月末時点での会員数は119,525名となっています。また、理学療法士国家試験合格者の推移ですが、平成11年度の受験者数が2,744名で合格者数が2,566名ですが、20年後の平成31年度では、受験者数が12,605名で合格者数は10,809名と、その数は目に見えて増えていることが分かります。
平成31年に行われた「第3回 理学療法士・作業療法士需給分科会」の報告では、理学療法士(PT)と作業療法士(OT)の供給数が、2040年頃には需要数の約1.5倍になるといった需給推計結果が示されています。将来的な供給過多は避けられない可能性が高いのは事実ですが、こういった推計結果を踏まえて、厚生労働省は、学校養成施設に対する養成の質の評価、適切な指導等を行うこと等により、計画的な人員養成を行うことが必要である、といった考えを示しています。
これまで説明してきましたように、理学療法士の活躍の場は広がって、医療分野だけでなく、介護・福祉分野やスポーツ分野など、様々な職場での需要は高まっています。同時に、理学療法士を目指す人が増え、リハビリ職としての個人レベルの質の低下や、将来的に供給過多になってしまう可能性も否めない、というのが現状と言えます。つまり、国家資格としての希少価値以上に、理学療法士一人ひとりが自己研鑽を怠ることなく、時代の変化に柔軟に対応できる専門家が求められる時代になる、ということが言えましょう。
理学療法士の知識や技術・専門性などの向上を目的として、日本理学療法士協会が認定する2つの資格制度があります。下記にまとめてみましたので、ご参照ください。
認定理学療法士 | 新人教育プログラム修了者を対象に、自らの専門性を高め、高い専門的臨床技能の維持、社会、職能面における理学療法の専門性(技術・スキル)を高めていくことを目的としています。新人教育プログラム修了者は7専門分野(基礎理学療法、神経理学療法、運動器理学療法、内部障害理学療法、生活環境支援理学療法、物理療法、教育・管理理学療法)のいずれかひとつ以上の専門分野に登録し、認定理学療法士を目指します。 |
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専門理学療法士 | 新人教育プログラム修了者を対象に、自らの専門性を高め、理学療法の学問的発展に寄与する研究能力を高めていくことを目的としています。新人教育プログラム修了者は7専門分野(基礎理学療法、神経理学療法、運動器理学療法、内部障害理学療法、生活環境支援理学療法、物理療法、教育・管理理学療法)のいずれかひとつ以上の専門分野に登録し、専門理学療法士を目指します。 |
※引用:日本理学療法士協会「生涯学習について」より
理学療法士としての価値を高めていくためにも、他職種の資格取得を目指すというのも重要な手段となります。今後の介護業界における需要を見据えて、ケアマネージャーなどの資格を取得する、あるいは福祉住環境コーディネーターや呼吸療法認定士といったように、自己研鑽の一環として、他職種の資格取得は、その後のキャリアにも良い影響を与えるはずです。
医療施設を中心に、理学療法士は様々な場所で活躍しています。どの職場が最も自分に適しているのかは、実際に働いてみないと分からない面が大きいとは思いますが、介護・福祉施設における理学療法士の仕事は、難しい判断を迫られたり、柔軟な思考が求められるため、ある程度キャリアを積んだ方が中心に働いており、新人の理学療法士に関しては、まずは病院で様々な経験を積んでいくことが一般的とされています。また、理学療法士には開業権がありません。いずれは独立して起業を、と考えている方々は注意が必要です。更に、起業する以上は経営者としてのスキルも必須となりますので、リハビリの技術とは全く違う勉強をしていかなくてはなりません。
重要なのは、漫然と働くのではなく、常に自分がどのような理学療法士を目指したいのか、といった明確なビジョンを持つことです。しっかりとした目的意識があれば、自ずと進むべき道は見えてくるものです。
理学療法士は国家資格であり、簡単に取得できるものではありません。また、苦労して資格を取得した後も、上述したように、「どのような理学療法士を目指したいのか」といったようなビジョンを持ち、常に勉強を怠らない姿勢を常に心がけるようにしましょう。キャリアアップなども大切ですが、人の為に努力し、尽くすことのできるリハビリ職の専門家、という基本中の基本を忘れることなく、リハビリテーションのスペシャリストとして、貪欲に知識・技術を吸収していくことで、あなたの可能性は更に広がることでしょう。