リハビリテーションの専門職である「作業療法士」。皆さんは、作業療法士が実際にどのような仕事をしているのか、またはどんな場所で活躍しているのか、ご存知でしょうか。今回は、通称OTとも呼ばれる作業療法士の具体的な仕事内容について、詳しく解説していきます。作業療法士を目指している方も、リハビリ職に興味があるという方も、ぜひご覧ください!
「Occupational Therapist」、略してOTとも呼ばれる作業療法士は、「理学療法士及び作業療法士法」に基づく国家資格です。養成校にて知識や技術を学び、卒業後に国家試験に合格することで、作業療法士の資格を得ることができます。尚、日本作業療法士協会の発表によると、2019年5月時点での作業療法士の会員数は60,399名となっております。「作業療法」の定義に関しては、以下をご参照ください。
作業療法の定義 |
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作業療法は、人々の健康と幸福を促進するために、医療、保健、福祉、教育、職業などの領域で行われる、作業に焦点を当てた治療、指導、援助である。作業とは、対象となる人々にとって目的や価値を持つ生活行為を指す。 引用:日本作業療法士協会ホームページより |
よく言われるのが、同じリハビリ職の専門家である理学療法士との違いについてです。実際、両者が持つ知識やリハビリにおける技術面において、近しい部分は多くありますが、専門とする領域に明確な違いが存在します。理学療法士は、主に基本動作(起きる・立つ・座る等)を担当し、「運動療法」や「物理療法」といった方法で、身体機能の回復・維持に努めます。対して作業療法士は、日常生活における応用動作(着替えや入浴、食事等)を担当し、日常的な動作はもちろん、運動・遊びや手工芸などの、あらゆる「作業」を通じて、リハビリを行っていきます。さらに、精神面でのケアを担っているのも、作業療法士の大きな特徴と言えましょう。
心と体のリハビリを担当する作業療法士が関わる対象・領域は多岐に渡りますが、大きく分けて以下の四つの領域が、作業療法の実施領域となります。
身体領域 | 病気や事故などで身体的な障がいを負った方々に対し、様々な作業療法を用いて治療を実施します。個人個人が持つ身体的な機能を最大限に活用し、身辺動作や家事動作、社会復帰を目指した訓練を行います。 |
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発達領域 | 脳性麻痺やダウン症候群などの子どもたちに対して、運動や道具を使った遊びなどを通して、一人ひとりの特性に合った発達成長を促します。 |
精神領域 | 精神的に問題を抱える方々に対して、生活の安定や対人関係能力の改善、社会復帰に向けた援助を目的として、生活に関わる様々な活動を用いた、心と体のリハビリテーションを行います。 | 老年期領域 | 何らかの疾患を抱えていたり、諸機能が低下してしまった65歳以上の高齢者に対しての治療・訓練を実施します。身体的な治療のみならず、日常生活における自立や安定、地域社会への関わりなどで、対象となる方の生きがいや、豊かな人生が歩めるように支援していきます。 |
また、作業療法の対象者の疾患・障害は以下のようになっておりますので、ご参照ください。
疾患・障害名 | |
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身体障害 | 脳血管性障害,骨折,高次脳機能障害(注意・遂行機能・記憶の障害など),パーキ ンソン病,呼吸器系疾患,骨・関節疾患,脊髄疾患,悪性新生物(がん・腫瘍など), 心臓疾患,失行・失認,失語,中枢神経系の系統萎縮・脱髄疾患など,脊髄損傷,脊 椎障害,失調症,手首及び手の損傷,頭部外傷,消化系疾患,器質性精神障害(アル ツハイマー病,脳血管性認知症などの認知症,脳損傷等による人格・行動障害等含む), 関節リウマチ,その他の疾患・障害, 加齢による障害, 膠原病,末梢神経損傷,神経 筋接合部及び筋の疾患(重症筋無力症・筋ジストロフィーなど),その他の循環器疾 患,てんかん |
精神障害 | 統合失調症,感情障害,器質性精神障害(アルツハイマー病,脳血管性認知症などの 認知症,脳損傷等による人格・行動障害等含む),精神遅滞・知的障害,アルコール 依存症,神経症性障害,自閉症・アスペルガー症候群・学習障害など特異的な学習障 害と広汎性発達障害,成人の人格・行動障害,てんかん,薬物依存・薬物疾患,その 他の精神疾患,摂食障害,心身症,情緒障害,脳血管性障害,児童青年期の行動・情 緒障害(ADHD 含む) |
発達障害 | 脳性麻痺,自閉症・アスペルガー症候群・学習障害など特異的な学習障害と広汎性発 達障害,精神遅滞・知的障害,染色体異常,てんかん,重症心身障害,児童青年期の 行動・情緒障害(ADHD 含む),神経筋接合部及び筋の疾患(重症筋無力症・筋ジスト ロフィーなど),脳血管性障害,先天性奇形,視覚障害 |
※引用:一般社団法人日本作業療法士協会「作業療法ガイドライン」より
作業療法士の主な勤務先は医療機関になりますが、介護や福祉、保健・教育分野から職業関連に至るまで、活躍の場は様々です。働く場所によって、リハビリの内容や目的にも違いがありますので、幾つかの例を挙げて解説していきます。
総合病院の作業療法部門や、リハビリテーションセンターなどに所属し、リハビリテーション業務を実施します。病気や事故などの後遺症が残った患者さんなどに対して、道具や手芸、ゲームなどを通じた「作業」で、筋力であったり関節の動きなどを回復を目的とした訓練を行います。また、高次脳機能障がいを負った方に対して、日常生活を送る上での負担を減らすべく、様々な方法を考案・または訓練を実施します。福祉用具の提案などを含めた、生活環境の改善なども含まれます。
精神科病院やメンタルクリニックでは、精神疾患を抱える患者さんに対して、コミュニケーション能力の獲得であったり、生活リズムの見直し・改善を目的とした支援を行います。さらに、小児病院や認知症に特化した医療機関においても、作業療法士はそれぞれの症状に合った方法で、治療にあたっています。
高齢化社会に伴い、介護老人保健施設や特別養護老人ホーム、訪問介護ステーションといった施設で勤務する作業療法士の需要が高まっています。主に要介護の高齢者を対象として、在宅復帰を目的としたリハビリを行ったり、日常生活の援助・介護を中心としたサービスを実施しております。高齢者の方々は、劇的に機能が回復するといったことは困難のため、身体機能の維持や、将来に向けた予防的なアプローチといったリハビリが重要となります。訪問リハビリなどにおいては、生活動作の訓練のみならず、介助者への指導、自宅を確認して手すりの位置などをチェック・改善の提案をするといったことも、作業療法士が担う役割となります。
障害者施設や児童福祉施設、精神保健福祉センターといったような福祉の分野においても、作業療法士は活躍しています。子どもに限らず、成人してから発達障害の診断を受けた方も対象とし、対人交流のスキル向上などを目的としたプログラムを組むなどして、支援にあたります。同時に、障がいのある方の苦手な部分などの対応法を、職場の人に共有することで、周囲のサポートを促すようなジョブコーチ的役割も担っています。
超高齢化社会に突入する日本の医療・福祉サービスにとって、高齢者の方々に対するサポートの充実は喫緊の課題となっております。そのような現代社会において、リハビリ職の中でも、唯一精神的な障がいを患った方への専門的なアプローチが可能な作業療法士の役割は、更に広がっていくはずです。認知症の予防・悪化防止などの観点からも、作業療法士の持つ知識と技術は、今後の高齢化社会において、重要な役割を果たすことでしょう。